心理療法面接では、私という聴き手のいる空間で、来談者さんが自分からことばを選びつつ、話してゆかれる。その合間にはしばしの沈黙もあり、そこからまた発せられることばがある。
来談者さんはそこにひとつひとつ、物語を担ったイメージを置いてゆかれる。それが過去と、また最近のできごとと共鳴しあって、大きな物語のひとつであることが見えてくる。
そのように、面接場面という空間・私と来談者さんの間の空間は、いわば「三次元的な水面(みなも)」だ。ことばというつぶてがひとつひとつ放たれ、それらが残す残響が共鳴しあって、また大きなひとつの波紋をつくる。その波紋の形は、かつて来談者さんが経験されたできごとや、また現在外の世界で経験されているできごとと通じ合っている。しばらくするとその波紋は消え、次の波紋を映すために、また水面は静かになる。
ことばの波紋を見て取るためには、水面が静かでなければならない。また、共鳴の現象が生じるためには、ともにいる私が自分の都合でむやみにつぶてを投げ込んで水面を乱してはいけない。共鳴が自然に生じる条件を整えるため努力すること、見て取った波紋をすなおに描写して来談者さんにお返しすること、それが私の仕事である。