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はじめての方へ

東洞院心理療法オフィス代表 北村隆人

ごあいさつ

 「精神分析的視点からの支援を通じて、心豊かな社会の発展に寄与する」ことを目的に2012年に開設した当オフィスでは、これまで心の問題を抱えた方に対して実施する精神分析的心理療法と、対人援助を専門にされている方(心理士、教育者、看護師、保育士の方など)への精神分析的トレーニング(訓練セラピーとスーパービジョン)の二つのサービスを提供してまいりました。
 今回、当オフィスのセラピストが私と北村婦美の二名体制となったことを機に、当オフィスの活動について広くお伝えするため、ホームページを開設することにいたしました。今後とも、当オフィスの活動にご支援賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

当オフィスの治療について

 当オフィスが提供している治療やトレーニングでは、「心の痛みを受けとめることを通じて、心の成長をもたらす」ことを重視しています。
 皆さまに当オフィスの利用をご検討いただく際には、なぜ当オフィスがこうした視点に立って治療やトレーニングを提供しているのか、その点についてご理解いただくことが大切だと考えています。そこでこの場を利用して、当オフィスがそもそも心の問題をどのようにとらえ、なぜ精神分析的視点からの支援を提供しているのか、という点についての基本的考えをご説明いたします。
 まず最初に、当オフィスの治療の要点にしぼってご説明し、その後にもっと詳しい当オフィスの基本的考えを記しております。少々長くなりますが、ご一読いただければ幸いです。

当オフィスの治療−その要点

  • 当オフィスで行っている精神分析的心理療法は、心の痛みを受けとめることを通じて、心の成長をもたらす治療です。
  • この治療を受けることで、自分の気持ちを理解しやすくなる、葛藤を持ちこたえやすくなる、より自由で安定した心になる、他者への共感性が高まる、などの変化が期待できます。
  • 一般的な心理療法とは、以下の点で異なります。
    一般的な心理療法は、「社会適応」が目標であり、治療期間は短い(数回から数十回程度)のが通例。深い心理までは探索しない。セラピストの役割は、クライエントに助言や指導を行うことがメインとなる。
    一方精神分析的心理療法は、「心の成長」を目標とするため、治療期間は長くなる(1年以上)のが通例。心の問題を深くまで探索することになる。セラピストの役割は、クライエントの心理を細やかに理解するよう努め、それを言葉で伝えることが主になる。
  • このような特徴があるため、精神分析的心理療法は以下のような方に適しています。
適した方 :
時間はかかっても、自分の心を深く見つめ直して、より自覚的、主体的に生きるきっかけにしたいと考えている方。
適さない方:
目の前の問題にしぼって早く解決したい方、心の深い部分を見ることは避けたい方。

当オフィスの治療の基礎となる考え

1 心の痛みを受けとめることの重要性

人は生きている限り、心の痛みを体験する
 人は誰しも生きている中で、心の痛みをもたらすさまざまな感情を体験します。たとえば経済的な不安や、優秀な同僚への劣等感、幸福をつかみとった友人に対して抱く嫉妬心、あるいは大切な人との死別が引き起こす悲しみ、といった感情などは、誰もが経験するものでしょう。
 そうした感情に襲われたとき、多くの場合はその痛みをもちこたえ、それを乗り越えようとさまざまな努力を行うでしょう。しかし苦痛が非常に強いものだったり、慢性的に続くものだったりすると、人はうまく対処できなくなり、その結果、心理的に不安定な状態に陥ったり、身体の調子を崩したりしてしまいます。
社会的対応がなされても、個人が対処するべき心の痛みはなくならない
 こうした心の苦しさを緩和するために、これまで多くの社会的対応がなされてきました。たとえば健康に関して言えば、医療や保健体制の整備により、過去の人たちが経験していた病気や、それに伴って生じていた心の痛みの多くは、現在は体験せずにすむようになっています。
 しかしそうした社会的な対応がいくらなされようとも、それで全ての心の痛みがなくなるわけではありません。個人で対処しなければならない痛みは、かならず最後まで残ります。それに対して私たちは、どう対処すればよいのでしょうか。
心の痛みから逃避することの問題点
 まず簡単な対処法としては、心の痛みから逃れてしまう方法があげられます。たとえば、いやな記憶を思い出さない、つらい体験をした場所に近づかない、といった方法です。
 このような逃避は、確かに一時的には有効でしょう。しかし、そうした一時しのぎの対処ばかりを繰り返していると、痛みゆえに触れられない心の領域が増えてしまい、その結果、心の状態が不自由でかたくななものになってしまいかねません。
心の痛みを受けとめることの意義
 そのような影響を生じさせないためには、心の痛みから逃避するのでなく、心の痛みに触れ、それを受けとめることが重要です。
 これは一時的には苦しい作業ですが、苦しい時期を乗り越えると以下のような肯定的な変化が心に生じます。痛みを完全になくすことはできなくとも、それを心の中に置いておけるようになり、落ち着いて自分のあり方について考えることができるようになります。さらに同じような痛みを抱えている人の気持ちを、以前よりも深く理解できるようになり、他者を思いやる気持ちが育つことが期待できます。
 このような成長をもたらしてくれる点で、心の痛みを受けとめることは人生において非常に重要な意味をもっています。

2 精神分析的心理療法−心の痛みを受けとめることを通じて、心の成長をもたらす治療

心の痛みを受けとめる過程を支える人の重要性
 しかし、一人で心の痛みを受けとめるのは大変難しいことです。もしこのプロセスを確実に歩もうとするなら、その道程をともに歩んでくれる人を見つけることが有益でしょう。しかし日常生活の中で、そうした存在はなかなか見つけられるものではありません。なぜなら、たとえ信頼できる家族や友人であっても、そうした人たちに対して、自分の本当に弱い部分や恥ずかしい部分まで心を開いて話すことはまず無理だからです。
 ここに、私たち専門家が必要とされる理由があります。
その目的にかなう治療−精神分析的心理療法
 私たちは、精神医療に従事する中で「痛みを受けとめること」の治療的意義を確信するようになりました。そして専門的なトレーニングを受け、その過程を適切に支えるために必要な学習を積み重ね、長年にわたって臨床経験を積んできました。
 この臨床実践の中で私たちは、精神分析的心理療法が「痛みを受けとめる」目的にもっともかなう治療だと考えるようになりました。なぜなら、この治療が「無意識を意識化する」こと−つまり、心の痛みゆえに体験が回避されてきた心の領域をあらためて体験し、それまで感じ取れていなかった自分の気持ちや思いを理解して、それについて考えること−を重視してきた治療だからです。
セラピストは何を行うのか
 この治療でセラピストは、以下のような援助を行います。
 まずセラピストは、治療を求めて来談された方(以下、クライエントと言います)が安心して心を開くことができる治療の枠組みを整え、その中でクライエントに自由に語って頂きます。この際セラピストが心を全体的にはたらかせながら聴いていると、安心して語れるはずなのに触れられない心の領域が、次第に感じ取れてきます。その領域にセラピストが慎重に触れていくと、クライエントに痛みをもたらしている感情が、セラピストに向けて次第に展開していきます。セラピストはこの痛みを受けとめつつ、クライエントの気持ちや思いを感じ取り言葉にすることを繰り返していきます。
 つまりこの治療においてセラピストが主に行うことは、問題を解決するための指導や助言ではなく、クライエントの心の痛みを受けとめ、その方がこれまで感じ取れていなかった気持ちや思いを感じ取り、言葉にして伝えることです。
 こうしたセラピストの援助を受けることで、クライエントも同じように、それまで痛みゆえに触れられなかった自分の気持ちを受けとめ、感じ取り、それを言葉で表現できるようになり、その結果、より自由で安定した心へと変化していくわけです。
この援助がクライエントに変化をもたらす理由
 こうしたセラピストの援助が、なぜクライエントの心に変化をもたらすのかと言えば、そもそも人間の心がそのようにして成長していくものだからです。
 人は赤ん坊の頃から、怖さやつらさなど様々な気持ちを、母親や父親に受けとめてもらい、理解してもらうことを通じて、次第に自分の気持ちに気づき、言葉で表現できるようになっていきます。そして自分の気持ちに気づけるようになると、今度は自分が他者の気持ちを細やかに理解できるようにもなっていきます。
 精神分析的心理療法は、人間の心に本来的に備わっているこの力に依拠して行われるものであり、だからこそ効果を発揮できるのです。
他の治療との違い
 では、私たちの提供する精神分析的心理療法は、現在行われている多くの一般的な心理療法とどう違うのでしょうか。ごく簡単に言えば、以下のような違いがあります。
 まず一般的な心理療法では、「社会適応」が目標となるため、治療期間は短い(数回から数十回程度)のが通例です。そして深い心理までは探索せず、セラピストの役割はクライエントに助言や指導を行うことがメインになります。
 一方、精神分析的心理療法は「心の成長」を目標とするため、治療期間は長くなる(1年以上)のが通例です。セラピストの役割は、クライエントの心理を深くまで探索し、それを細やかに理解して、言葉で伝えることが主になります。
 まとめると、精神分析的心理療法は、心を深く見つめなおすために治療期間は長くなるが、しかしその分、自分の生き方全体を見直すことができる治療だと言えるでしょう。

3 対人援助職のトレーニングに役立つ理由

 では次に、対人援助職のトレーニングとして、精神分析的心理療法が用いられる理由についてご説明します。
 その理由は、この治療が他者への共感性を高めてくれるからです。対人援助の仕事をより良く行おうとすれば、利用者の気持ちをこまやかに理解し、その理解にもとづいて援助を行わなくてはなりません。しかし援助者の中に、痛みゆえに体験できていない心の領域があると、同じような気持ちを抱いている利用者の心理がよくわからなくなってしまいます。
 そのような場合に、精神分析的心理療法が有効となります。この治療を受ける中で、自分自身の気持ちをより深く、多面的に感じとれるようになれば、その経験を足場にして、利用者の気持ちをより繊細に感じ取れるようになるからです。
 これが対人援助のトレーニングとして、精神分析的心理療法が用いられる理由です。それゆえ精神分析的心理療法が社会で広く行われているイギリスなどでは、こうしたトレーニングが重視されるようになっていますが、日本ではまだほとんど行われていません。
 当オフィスでは、対人援助職の方々がより深く他者の心を理解できるようになることが、人の心を大切にした社会をつくりあげていく上での重要な課題だととらえ、対人援助職の方のトレーニングも重視しています。

4 当オフィスの治療の限界

 最後にお伝えしておかなければならないことは、当オフィスの治療に備わっている限界についてです。それはクライエントの方が精神的に不安定な状態にある場合には、治療をお引き受けできないということです。
 この限界は、精神分析的心理療法のもつ特性と、当オフィスが私たち二人のセラピストだけで運営されている点に由来します。
 精神分析的心理療法の中では、それまで体験していなかった心の痛みに触れるために、一時的に精神的な動揺が生じ、また気づいていなかった自分の気持ちや思いに気づくために、これまでの生き方でよかったのか、これからどう生きて行けばよいのかという点について悩むことになります。これらは心の成長のために必要不可欠な苦しみではあるのですが、精神的な不安定さが強い状態にあると、この不安や苦しさに耐えられなくなり、緊急の対応が必要になる場合があります。
 しかし当オフィスでは、二人のセラピストだけで運営しているために、緊急の対応や時間外対応ができません。そのため精神的不安定さが強い場合には、当オフィスでの治療をお断りする場合がございます。
 この点についての確実な判断を行うために、治療開始までに数回アセスメント面接を行い、そこで精神分析的心理療法が適しているのか慎重に判断するようにしていますが、ご利用をご検討いただく際には、私たちの提供するサービスにそのような限界が備わっていることをご理解いただければ幸いです。

終わりに

 以上が、当オフィスの運営にあたって、私たちセラピストが共有している基本的考えです。
 ここまでお読み頂いた方にはおわかりいただけると思いますが、精神分析的心理療法は決して容易な治療ではありません。心の痛みを受けとめ、それを乗り越える治療的達成は、かなりの時間とエネルギーを割くことによって、ようやく得られるものだからです。
 しかし、その努力は大きな果実をもたらしてもくれます。それは、心というものの深さに触れること自体がもたらす感動と、心の成長を実感することで得られる喜びです。このような感動と喜びこそが、他の治療法では決して体験できない、精神分析的心理療法ならではの魅力だと私たちは考えています。

 自分の人生を自覚的に、主体的に生きたいと考えておられる方にとって、当オフィスの治療はきっと意義あるものになると、私たちは確信しています。この治療に関心をもたれた際には、どうぞご遠慮なくご連絡ください。
 皆さんのお問い合わせ、お申し込みをお待ちしております。